ピティナ・ピアノステップ

アドバイザーは手で語る 江崎昌子先生

アドバイザーは手で語る

連載第5回目は、昨年からステップアドバイザーとトークコンサートをおつとめくださっている江崎昌子先生をお迎えします。ポーランドへの6年の留学期間もあり、ショパンをはじめとするポーランドの作曲家の演奏機会の多い江崎先生。それらの作曲家への思い、自らの演奏活動にかける思いをお聞きしました。

江崎 昌子先生
桐朋学園大学を卒業後、ポーランド・ワルシャワショパンアカデミー研究科修了。 これまでに熊谷洋、北村陽子、タチアナ・シェバノワ、ジャン・エフラム・バブゼ、バルバラ・ヘッセ・ブコフスカ、セルゲイ・エデルマンの各氏に師事。 '95年第6回ミロシ・マギン国際ピアノコンクール第1位(フランス)、'97年第4回シマノフスキ国際ピアノコンクール第1位及び最優秀シマノフスキ演奏賞(ポーランド)、'98年第21回サレルノ国際ピアノコンクール第1位及び最優秀ドビュッシー演奏賞(イタリア)などの入賞歴をもつ。ポーランド各地のオーケストラとの共演や、モスクワ放送響、プラハ放送響、ウルサン交響楽団(韓国)東京交響楽団、新日フィル、日本フィル、大フィル、2002年にはプラハにおいて小林研一郎指揮、チェコフィルと2晩にわたってショパンの協奏曲第1番を演奏した。CD録音もオクタヴィアレコードよりポーランドの作品集 ”メモリーズ”をはじめマギンの子ども曲集などをリリース。2005年にはショパンのエチュード全集、(2005年レコード芸術誌4月号、特選)2006年にはショパンのマズルカ全集(2006年レコード芸術誌9月号、特選)をリリース。また2004年の東京文化会館でのリサイタルに対し、第31回日本ショパン協会賞受賞。現在、洗足学園大学で講師として後進の指導にもあたっている。オフィシャルサイト
ショパン・マズルカとの出会い

トークコンサートの選曲では、自分が表現したい作品をいかに「伝えるか」ということ軸に考えています。もちろん有 名な曲を弾いて喜んでもらえると嬉しいのですが、馴染みのない作品でも楽しく聴くことができるように様々な仕掛けをしています。

子どもたちが初めて出会う曲でも演奏を楽しめるよう、想像力をかきたてる工夫を加えています。たとえば、まずはタイトルがついていて情景を思い浮かべやすい「子犬のワルツ」から始め、想像力を働かせるためのきっかけを作り、次に抽象的な「ソナタ」を選び、自作のキャラクター「猫のちゃぺくん」をテーマに演奏をしていきます。その中で子どもたちに曲のイメージを質問する場面があるのですが、「学校から一人で帰る感じ」「おうちで一人家族の帰りを待っている感じ」を始め、子どもならではの発想に驚かされることも多いです。おとなしく聴いている子、恥ずかしがり屋な子でも、参加しやすい雰囲気を作ることで反応が返ってくるようになるとコンサートへの手ごたえを感じます。

先生のCDや演奏会の曲目を拝見すると、ショパンをはじめミロシ・マギン、シマノフスキなどポーランド出身の音楽家が多く見受けられます。先生がポーランドに強く惹かれるきっかけや理由は何でしょうか?

私が鮮明に記憶しているのは、第11回ショパン国際ピアノコンクールです。ちょうどブーニンが優勝したときで、当時私は15歳でした。日本でもテレビで特集を組まれるなど、かつてないほどショパンコンクールが大きく取り上げられており、私もビデオを録りながら一生懸命に見ていました。コンクールの様子は勿論のこと、ポーランドの街の雰囲気やのコンクールに対する人々の関心の高さに強い印象を受けたことを覚えています。そしてその4年後に短期セミナーでポーランドに行く機会に恵まれまして、あるお宅にホームスティをさせていただきましたが、やはりその家族がよくショパンコンクールの話をするのです。「誰の演奏がどうだ」「誰のマズルカが一番よかった」と。特別に音楽一家というわけではない一般の人々がこれだけクラシック音楽に対して個人の意見を言うのか、ということに驚きましたね。音楽が人々に本当に根付いているんですよね。

ポーランドの舞曲マズルカは、先生の主力レパートリーのひとつですが、先生がマズルカに惹かれる理由は何でしょうか?

マズルカってショパンにとって最も個人的な作品なんですね。「最も身近な言語」というか。他人には言えないようなことを自分のためだけに書いた作品なんです。そしてとても悲しい。だからこそ惹かれたんだと思います。私はどの作曲家も大好きですが、誰でもより身近に感じる作曲家っていると思うんです。私にとってはやはりショパンは特別な存在です。

フレーズが呼吸しているように

これからCD(ショパンソナタ全集)の録音をされる時期と伺っています。ずっと演奏活動をなさってきて、今、ご自身の目指す演奏の変化をどのようにとらえてらっしゃいますか?

例えばショパンのソナタ2・3番は弾き始めてもう20年くらいになりますが、今、私が最も大切にしたいのは、長いフレーズでとらえ感じることです。ショパンの作品は美しいディテールの集まりですが、そのひとつひとつがひとまとまりになっていることを感じ、それで何を伝えたいか何をやりたいかが伝わることです。コンクールの審査で学生さんの演奏を聴くと、曲のディテールにばかりとらわれすぎているなと感じます。自分が学生だった頃を思い出してもやはりそうでした。音楽がなんて流れていなかったんだろう、立ち止まってばかりいたんだろうと。

もうひとつ大事なのは呼吸。レッスンでは生徒たちに「フレーズが呼吸しているように」と伝えますが、フレーズが決して停滞しない、常に呼吸して続いていくように弾くことです。どこに行きたいのか、そしていかに自然に長い息を保つか。今、それが最も大事なことだなと思っています。

「弾く」だけなく「聴く」子どもたちを育てていきたい

先生はリサイタル、海外オケとの共演といった大きな演奏会の一方で病院や小学校の訪問コンサートもされていらっしゃるそうですね。

はい。小学校の訪問コンサートは、音楽への関心が未知数の子どもたちにこちらから歩み寄って行って聴いてもらうコンサート。私たち演奏家にとってこれから本当に大切な活動ではないでしょうか。ステップのトークコンサートもそうですが、「弾く」だけでない「聴く」子どもたちを育てていきたいなぁと。ある学校では「音楽の贈りもの」と題してショパンやドビュッシーを演奏しました。「ショパンは人間の感情を音楽にした作曲家です。でも音楽はそれだけでない、例えば映像を音楽にした作曲家もいるんです。ドビュッシーです。」とわかりやすくお話をして、「水の反映」を弾いたのですが、それが思いがけず最も反応が良かったですね。子どもたちってどんなところに反応を示すかわからないおもしろさがあります。

ひとつひとつ言葉を選びながら丁寧に回答してくださった江崎先生。今後もステップの場でお会いできることを楽しみにしています!

CD情報

ショパン:ソナタ全集 まもなく発売!

  • ピアノ・ソナタ 第1番 ハ短調 作品4
  • ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 作品35 「葬送」
  • ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58
  • 発売日・品番・価格:未定
  • 収録:2008年7月28 - 30日:富山・北アルプス文化センター
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