ピティナ・ピアノステップ

アドバイザーは手で語る 川井綾子先生

アドバイザーは手で語る

連載第6回目は、昨年からステップアドバイザーとトークコンサートでご活躍いただいている川井綾子先生をお迎えします。川井先生は、ステップでは勿論のこと、各地のコンサートで大好評を博しています。

川井綾子先生
1986年第40回全日本学生音楽コンクール高校の部全国第1位、日本放送協会賞を受賞。1991年桐朋学園大学を卒業。同年「創立50周年記念特別演奏会」にて同大学オーケストラと共演。パリ・エコールノルマル音楽院の最高演奏家課程を首席で卒業し、イタリア、スペインの数々の国際コンクールに入賞。フランス、イタリア、ベルギーでリサイタル、コンチェルトを行う。日本でも様々な交響楽団と共演、NHK・FMリサイタル、横浜市招待国際ピアノ演奏会、園田高弘主催「旬のピアニストシリーズ」に出演。また(財)「公共ホール活性化授業」や(株)スタインウェイ・ジャパンのアーティストとして各地でレクチャーコンサート、リサイタルを行う。現在フェリス女学院大学音楽学部講師。オフィシャルサイト
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音楽の好みと絵画の好み

川井先生は、フランスへの留学経験からも、やはりフランスの音楽には、特別な思い入れがあるのでしょうか?

勿論“フランスもの”は、とても好きな世界です。フランスならではのエスプリと美意識、知性と遊び、そしてある種の官能性も混じり、他の曲にも増して音色に高度な配慮が要求される大人の音楽です。最初に本格的なフランスものを課題に頂いた時にはすごく大人になった気分がしたものです。でも、必ずしもフランスものが一番好きなわけではなく、高校生の頃はプロコフィエフが大好きでしたし、大学の頃はシューマンの情熱的で夢みがちな世界に恋をして、弾く度にドキドキする想いでした。コンクールをきっかけに、向いていないかもと思っていたショパンにも開眼しました。面白いのは、それらの変遷は、私の絵画の好みの変遷と一致していたんです。プロコフィエフが好きだった時期は、ゴッホの荒々しいタッチの絵が好きでしたし、シューマンの頃にはシャガールに狂っていて(笑)、ショパンの頃にはモネのような少し落ち着いた自然な作品に惹かれるようになりましたから。また最近は少し成長した(年をとった?)せいか(笑)、昔好きになれなかった作曲家も垣根がどんどん取れてきたのが有難いです。「何故こんなに不自然でしつこいの?」と思っていたベートーヴェンの謎が解けてきたり、「洗練されていない」と思っていたブラームスのいぶし銀のような渋さに今はゾクゾクしています!

貪欲に生きる

先生が演奏の際に大切にされていることは何ですか?

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音楽を作り上げる事は絵を描くことに似ていると思うのですが、写真のような正確なデッサンでも面白くない絵もあれば、子供のようなタッチでも何か訴えてくる絵もありますよね。音楽もそれと同じで、聴衆に何かを伝えると言う事が一番大事だと思います。その為にはこちらも感受性を鍛えておかなければなりませんが、それにはピアノを前にしての練習だけでなく人生そのものを豊かに味わっていく必要があると思います。以前、マリア・ジョアオ・ピリスさんに教えを受けた際に「音楽家は寛容でないと」「色々なものに興味を持ちそこから養分を吸って音楽に還元するのよ」というお話を伺った事がありますが、喜びも悲しみもある人生を貪欲に生き生きと生きる事で作品の中に隠された様々な感情をより豊かに感じ取り、表現につなげる事ができる思っています。また、パリで何回か聴いたラドゥ・ルプーの、魂にささやきかけるようなシューベルトは本当に絶品で、聴衆が微動だにせずものすごい集中力で引き込まれるように聴いていたのが印象的でした。大音量や 派手なパフォーマンスがもてはやされる中で、「引き算の演奏」とでも言いたくなるような演奏は酸いも甘いも噛み分けた後の「天上の音楽」のようで、こういう世界に少しでも近づけたらなあと思います。

曲を身近に感じるヒントを伝えたい

ステップのトークコンサートは勿論のこと、スタインウェイの"Young Virtuoso Series"として各地でのトークコンサートでも活躍中の川井先生ですが、トークコンサートで伝えたいことは何でしょうか?

コンサートには、必ずしもクラシック音楽に造詣の深い方ばかりがいらっしゃるわけではありません。例えば、私はバレエを鑑賞するのが好きですが、バレエについて沢山の知識を持っているわけではないので、もし(足の)ステップの種類や見どころなどの説明をしながら踊ってくれるような舞台があったとしたら、是非行ってみたいですね。そういった自分の感覚からも、知らない作品でもお客様に興味を持って頂けるよう、作曲家の人間性や作品の生まれた背景、またそれぞれの国の文化的特色など、エピソードを交えてご紹介するのです。私が子どもだった頃、作曲家は「雲の上のお方」で「聖人」なのだと思っていましたが、等身大の作曲家の姿というものが見えてくると彼らも自分と同じ悩み多き一人の人間だったと思えて、ぐっと曲に寄り添いやすくなる感じがします。そういう「曲を身近に感じるヒント」のような事を言葉でお伝えできるのがトークコンサートの魅力ですね。ステップなど、お子さんが多い時には楽器の近くまで来てもらって、楽器から出る音の 震動や私の息遣い、手の使い方などを肌で感じてもらったり、普通のコンサートのように遠くで黙って聞くのとは違う経験もしてもらえたらと思います。演奏とトークを一緒にするのは結構大変でもあるのですが、お客様とのコミュニケーションをより密にできるこの形態は私にとっても楽しいコンサートです。

【コンサート情報】

  • 2008年11月25日(火) 徳島市立福島小学校にてピティナ学校クラスコンサート
  • 2009年5月23日(土) 津田ホール
  • 問合せ:ミリオンコンサート(TEL:03-3501-5638/FAX:03-3501-5620)

【CD情報】

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川井綾子『Fantasy』 -息づく情熱 幻想の詩

  • 収録曲目: J.S. バッハ : 半音階的幻想曲とフーガ BWV903
  • W.A. モーツァルト : 幻想曲 ニ短調 K.397
  • F. ショパン : 幻想曲 ヘ短調 op.49
  • R. シューマン : 幻想曲 ハ長調 op.17
  • 2,800円(税込)
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