アドバイザーは手で語る 國谷尊之先生
ステップでいまやおなじみとなった人気企画、アドバイザーによるトークコンサート。ステップを「弾く」機会だけではなく、プロの演奏を「聴く」機会としても体験できるようにしようと2002年から本格的にはじまったトークコンサートは、今では年間70地区(2006年度実績)で行われるようになりました。その先駆者とも言える國谷尊之先生。トークコンサートで絶大な好評を得ている國谷尊之先生に、その人気の秘密をさぐってみたいとインタビューしました。
お父さんを味方につける
トークコンサートの会場の雰囲気を先生はどのようにとらえていますか?
まず観客がステップ参加の子供たち、またはその親御さんということもあって、トークコンサートへの参加意識が高いですよね。当然、演奏に対する反応が鋭いので、お互いのコミュニケーションがとりやすいなと感じます。演奏中に前列の子どものコメントが聞こえてきたり、演奏後に子どもから手紙をもらったり。演奏後にロビーに座っていると「久しぶりにコンサートというものを聞きました」と参加者のお父さんから声をかけられることもあります。
ステップのトークコンサートは、お父さんがコンサートを聞く機会にもなるのですよね。
そうなんです。お父さんということで言うと、私のトークコンサートでは、ソロのほかに、お父さんにステージ上にあがってもらってオスティナートだけ担当していただき私と連弾をするコーナーも時々行います。お父さんにとっても新鮮な機会だと思いますし、家庭の中でやはりお父さんを音楽に引き込み、味方につけることは重要です。「なんだ、子どもの習っているピアノは意外とおもしろいじゃないか」なんてね。
作品できたての感動を
國谷先生ご自身では、トークコンサートの内容、例えば選曲や演奏中のトークについて工夫されていることはありますか?
トークコンサートは15分、長くても30分という限られた時間で行います。そこで作曲家シリーズ、名曲シリーズなど希望に応じてテーマを絞って選曲します。特に紹介したいのは、難解ではないけれどそんなに知られていない良い曲。たとえばシベリウスなどは子供はあまり知らなかったりします。あとは、叙情的だったり、リズムが生きている曲だったり、華やかな奏法があったり、子供たちの印象に残る曲を選ぶこともあります。
トークについては、やはり曲の背景を伝えることでその作品のイメージを深めて、より興味をもってほしいと思っています。曲のエピソードでよくお話するのは、その作品ができたときの「誕生秘話」ですね。例えば、「ショパンのあの有名な変ホ長調のノクターンはショパンがシューマン宅に遊びに行ったとき、できたてほやほやの状態で弾いたらしい」とか。クラシック作品というのは、その名のとおり「昔の遺物」だと思われがちですが、勿論それはその当時にとっては最先端だったわけで、その「できたての瑞々しさや感動」というものを伝えたいと思っています。
トークコンサートの力
國谷先生はご自身のリサイタル、アンサンブルのコンサートなど様々な演奏活動を行っておられますが、トークコンサートは國谷先生にとってどのような位置づけなのでしょうか?
トークコンサートは、私にとっては、本質的なコンサートのひとつと言えます。それは、子どもたちが音楽を聴くきっかけをつかむためのものであり、音楽の入り口に立った子どもたちを引き込むきっかけになればと思っています。言わば、音楽普及活動といったところでしょうか。一方、リサイタルでは、今自分が興味を抱いている曲目を中心に、組み立てます。それは'実験的要素'を含みます。トークコンサートとリサイタル、私にとってはどちらが欠けてもいけない、どちらも大切な活動です。それは全く性格、目的の異なるものですが、どちらもそれぞれの「場」に必要なことを提供するということでは同じです。
またよく言われることではありますが、演奏会というのは、まだまだマーケットとして成り立っていないですよね。マーケットが成熟していくには、もっとたくさんの方に演奏会に来ていただく必要があります。その聴衆を育てるために、ステップのトークコンサートは大きな力を持っているのではないでしょうか。トークコンサートの素晴らしい点は、全国的な規模で、複数のアドバイザーで広く隅々まで実施することができるところです。私もその活動の一端を担いたいと思いますし、それこそが私の役割だと考えています。
ありがとうございました。今秋も各地のステップで國谷先生のトークコンサートが予定されていますね。楽しみにしています。
國谷先生のステップトークコンサート予定
- 11/4川口 川口総合文化センター リリア催し広場(川口ステーション)
- 11/25岸和田 岸和田市立浪切小ホール(いずみステーション)
- 12/2伊那 かんてんぱぱホール(伊那ステーション)
國谷先生の演奏会予定
繭の会 vol.12「Z.コダーイ- 音楽のみなかみ -」 Z.コダーイ作品を中心としたソロと室内楽のコンサートです。2007年9月10日(月)19:00開演
会場:ムジカーザ(小田急線・東京メトロ千代田線代々木上原駅下車 徒歩3分)